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ここ、秀流国には北から南南東に向かって「桃青川(とうせいがわ)」と呼ばれる大きな川が流れている。
運河としても利用されているこの川は、大きな支流の傍には市場や宿場町が立ち並び、小さな支流のそばでは農耕や牧畜が盛んに行われている。
近隣諸国に比べて沿岸線の長い秀流国は、大陸で二番目の土地の広さと最も豊かな水を誇っていた。
王都は桃青川と隣国の剋秧国(こくおうこく)へと流れる大きな支流に挟まれるような形で広がっており、王都の中央より少し北にある王城は荘厳にたたずんでいた。
その王城の門から、心なしかいつもより多くの兵が出入りしている。いくつかの小隊に分かれ、馬に乗って周辺の村々へ急ぐものや、王都中を歩き回っているものが目立った。
兵士たちが馬にまたがり店の立ち並ぶ通りをかけていく様子を、店先にしゃがみ込んで見つめている少年がいた。馬が上げた砂埃が口に入ったのか心底嫌そうな顔をすると、隠れるようにして唾を吐く。足で吐いた唾に砂をかぶせると、空を見上げてため息をついた。そして膝を叩いて立ち上がると、大きく伸びをする。
「うぅ~~ん……」
気持ち良さそうに声を出すと、首を左右に傾けて、ボキボキと骨を鳴らす。これがまたさらに気持ちいいのだ。
「明(めい)、雨が降りそうだし、客ももう来ないだろうから今日はさっさと店仕舞しよう。のれん降ろすぞー」
そう店の奥に声をかけるや否や、戸口に立てかけてあった棒を取ると、のれんを下ろし始めた。
「荘綺(そうき)様、まだ店を閉めるには早いですよ。旦那様がお留守の間に売り上げが落ちでもしたら、わたしは旦那様に合わせる顔がありません!」
慌てて奥から飛び出してきた長身の女を見て、荘綺と呼ばれた少年は肩をすくめて笑った。
「ちょっと遅かったね。もうのれんも降ろしちゃったし、店の戸も閉めちゃった」
「荘綺様!!あなたっていう人は…」
口を開きかけた明を押しとどめ、荘綺は外を気にしながら静かに囁いた。
「今日は通りが騒がしい。これじゃ来る客も来ないって」
「そうですけど…」
「それにほら、品は夜に売ればいいよ。おれ、夜の方が好きだし」
そして明の小言が口から出てくる前に、荘綺は近くにあった台帳を手に取ると店の奥へと逃げ込んでいった。そんな荘綺の背中に「夜に頼り過ぎるのは良くないですよ!!」と明が声をかけたが、荘綺の耳に届いたかは謎だった。
店には2階建てになって上が住居になっているものや、そもそも店と家が違うというものもある。前者は商人としてはそれなりに稼いでいる者たちの、後者は商人として駆け出したばかりの者や自らの店を自前で構えるだけの財がない者たち、というのが一般的な様式となっている。
そしてどちらにも属さないのが、荘綺の家ように商人として成功している者たちだった。
大きな屋敷は商人として自分の扱う商品の品質、信頼、そしてそれに適うだけの売れ筋を誇る大切な看板にもなっているのだ。
荘綺は開けた戸を裏手で閉めると、台帳をパラパラとめくった。
確かに今日の売り上げはあまり芳しくない。全体的な売り上げは大幅に下がったというわけではないが、徐々に下がりつつあるのも事実だった。
荘綺は明の言葉を思い出す。荘綺の父、そしてこの店の主は、自らの手で品物を手に入れると言ったきり半年近く帰ってきていない。そしてその主不在の家と店の全てを、息子である荘綺が任されている。
中庭を抜けて厨房に入り、下働きの者たちに声をかけると、荘綺はそのまま厨房の一段高くなっているところに腰かけた。手際よく夕餉の用意をしていく女たちの姿を見ながら、荘綺はため息をつく。
父がいなくなってから、毎日のように考えた。自分と父では、何が違うのかと。
もちろん荘綺の父の方が踏んできた場数も違うし、商売という道の難しさをよく知っている点では荘綺より勝っているのは当たり前だ。尊敬もしている。
だからと言って、荘綺は売り上げを少しでも落とすつもりはなかったし、父が帰って来たときに褒められるくらいにはやってやるという気でいた。
それがどうだ、売り上げはゆるやかに下降の曲線を描こうとしている。
荘綺がもう一度ため息をつき視線を足元に落とすと、荘綺の上に影が落ちてきた。
「なぁに、暗い顔をしとるんじゃねこの子は!!」
その声の持ち主は恰幅の良い厨房の女主だった。
荘綺は顔を上げずに、「夕餉は遅くなりそう?」とだけ尋ねた。
「若様がご所望なら、いつでもできるよ」
「その若様っていうの…やめてもらえないかなぁ」
「いいじゃないかい。わたしらにとっちゃ荘綺さんは若様だよ」
そう言って豪快に笑いながら荘綺の頭をぐしゃぐしゃと撫でた。
「これが若様に対する態度かよ!!」
荘綺はまた大きなため息をついた。
*続く*
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